「英霊にこたえる会」発足の経緯

政局の混迷その極に

 昭和51年1月23日、第77回通常国会が再開された。衆院内閣委員長には坂村吉正氏(群馬)が就任し、前委員長の藤尾正行氏は、筆頭理事として引続き内閣委員会にとどまった。2月3日、藤尾正行氏は、日本遺族会の佐藤専務理事に「靖國神社問題に、一応の決着をつけるべき責任を痛感しており、この国会で、できれば、何とか実質的な前進をはかりたい」とのべ、前国会の方針が踏襲されることがうかがわれた。

 しかし、2月5日、突如としてロッキード汚職問題が発生し、わが国は、空前の混迷に巻き込まれてしまった。自民党は、まさに結党以来の危機に直面するに至った。

 戦後三十年を契機として、すべての面にわたって出直し的改革がとなえられてきたが、政治の基本姿勢こそ、最もきびしく問われている。

 靖國神社法案をめぐる多年の経緯の中で、とくに自民党の政治姿勢に対する警告は、幾度も発せられてきた。しかし、結果的には、いつも、それは裏切られ、耳も傾けられずに来たのであった。いま、靖國神社法の国会提出どころか、靖國神社問題について話題にも出来ないような政治情勢に、自民党は追い込められている。果して誰の責任というべきか。

新国民組織の目的

 日本遺族会、「靖國協」では、基本態度に基づいて、「新国民組織」の結成に着手した。

新国民組織」結成の目的について「結成試案」は次の如く説明した。

  • 1. 従来の靖國神社国家護持運動は、靖國神社法の成立を中心とし、自民党に対し、決断を迫る運動であった。しかし、諸般の情勢のもとで、こうした運動のあり方は行き詰り、一つの転機を迎えている。
  • 2. 自民党の中から段階的な構想が表面化し世論調査、参考人意見聴取、三木総理靖國参拝、8・15標柱などがその一環として具体化した。これは靖國神社の国家護持と直接関係はないが、反対側は、既成事実の積み重ねとして過敏な反応を示している。
  • 3. 自民党に対して不信感が起っている。また靖國問題に対する挫折感が見られる。しかし、自民党のみを責めても仕方ないし、困難は覚悟の前である。そこで、自民党のみにお願いするのではなく、われわれの立場で為し得ることは何か、そのことにおいて一歩でも前進させていく方法はないか。
  • 4. 大きいのは世論である。ところが、靖國問題については、世論の大半はわれわれを支持しているにかかわらず、それが政治やマスコミの面ではまるで逆の現象を見せている。これはおかしいし、大きな盲点といわねばならない。
  • 5. そこで世論をもっと喚起し、国民の意のあるところを反映させることができれば、大分情勢は変ってくるのではないか。同時に英霊顕彰運動の積み重ねをこれと結びつければ一層効果的となろう。
  • 6. 新国民組織の目的はここにある。いわば国会と相呼応して国民運動を展開し、国民世論を喚起するとともに、英霊顕彰の実をつくりあげて行くことである。
  • 7. 具体的には、天皇や総理、国賓等の公式参拝の実現、慰霊の日制定、憲法解釈の是正、靖國神社における国民的大慰霊祭、靖國神社国家護持に関する啓蒙宣伝活動。
  • 8. 国民に対しては、純粋な国民的立場に立って戦歿者の慰霊顕彰を訴え、靖國神社問題について正しい理解と国民的合意の形成を求める。
「英霊にこたえる会」結成へ

靖國協」では世話人会を設け、新国民組織の結成について、真剣な検討を進めた。そして、会の名称は「英霊にこたえる会」と内定し、次のような結成趣意書をまとめた。


英霊にこたえる会 趣意書

 戦後30余年、わが国の平和と繁栄は250万英霊の尊いいしずえのうえに築かれていることを、われわれ国民は決して忘れてはなりません。

 しかし、この繁栄も“魂なき繁栄”といわれ、いまや、政治、経済、外交、教育などのあらゆる面において、重大な転換期た直面しております。

 わが国の存立のため、身をもって難局に殉じた幾多同胞の尊い献身と犠牲に対し、敬意と感謝の誠を尽くすことは、国および国民として当然のつとめであります。同時に平和のいしずえとなった英霊のかけがえのない生命の重さを銘記し、その遺志にこたえることは、現代に生きるすべての世代の重大な責任であります。

 それは、あくまで、わが国の自由と平和を守り技こうとする日本国民の決意の基盤をなし、また、今世紀に二度まで世界大戦の悲劇を体験した人類の悲願につながるものであります。

 世界いずれの国においても、戦没者に対する慰霊と顕彰が国の最高儀礼をもって行われ、さらに国際的儀礼とされているのは決して偶然ではありません。

 しかるに、戦後、わが国においては、戦没者に対する慰霊、さらには英霊をまつる靖國神社のあり方をめぐって久しく不毛な対立と抗争をくり返していることは誠に遺憾であり、ここに民族にとって最大の不幸が存するというべきであります。

 靖國の英霊に対し、国の名において、最もふさわしい儀礼を尽くすことは極めて当然のことであり、国民多数の真情に合致するところであります。

 靖國神社問題が政争の具とされたり、また、軍国主義の復活等と結びつけて論議されること自体、全く本質を逸脱したものといわねはなりません。

 英霊に対する国および国民の基本姿勢の確立こそ、今日の急務であり、そのためには最早政治の場のみにゆだねることなく、国民一人一人が勇気をもって行動を起すべきときであります。

 国民各層の良識を結集し、英霊にこたえる国民的運動を展開し、その総意を反映させるならば、必ず正しい解決がはかられることを確信いたします。

 この国民一人一人の自覚と行動こそが戦後風潮を脱却して、民族の魂をよみがえらせ、わが国の基本方向を確立する唯一の道と信ずる次第であります。

 ここに、有志相諮り、広く国民の各界各層に対し、「英霊にこたえる会」への参加を呼びかける次第であります。