提言 vol.3

提言 vol.3

2009.10.02

  • 資料

「わだかまり」強める代替施設

国学院大学教授 運営委員長
大原康男 (本会中央本部運営副委員長)

不参拝決めた民主党政権
 総選挙公示の7日前の8月11日、鳩山民主党代表は政権交代があった場合にも「私自身は(靖國に)参るつもりはないし、閣僚の皆さん方にも自粛いただきたい」と明言していた。しかし、ことは首相や閣僚らの靖國不参拝の長期化にとどまらない。続いて翌十二日に鳩山代表は「どなたも、わだかまりがなく戦没者の追悼ができる国立追悼施設の取り組みを進める」と表明、同党の政策集「INDEX2009」に明記されていた靖國神社に代替する国立戦没者追悼施設の建設を党の方針として明確に打ち出したからである。

 これを受けて当時幹事長だった岡田克也外相も「(追悼施設のあり方に関しては)有識者に議論していただき、それを尊重する形にする」と、さらに一歩踏み出し、いかにも敏速な動きであった。

「靖國で会おう」の約束は
 靖國神社に代わる追悼施設の構想は過去にも何回か浮かんでは消え、消えては浮かんだ代物であるが、近くは小泉純一郎内閣時代に福田康夫官房長官の下で推進されたことは記憶に新しい。

 このときは小泉首相が消極的であったため、実現には至らなかったものの、今回は、鳩山代表の年来の持説であり、党の政策として正式に掲げられていたものなので、実現性はこれまでになく高いと思われる。まことに由々しい事態が到来したといえよう。

 そもそもこの種の施設の建設に反対する理由には事欠かない。とはいえ、これまで繰り返し述べてきたことなので、いささか気が重いが、新たな段階に至ったことに鑑み、ここでまとめて整理しておくことも無益ではあるまい。

 何よりもまず、その動機が〝A級戦犯〟合祀を理由に首相参拝を反対する中国などの非難をかわすことにあるからだ。

 ここで〝A級戦犯〟を裁いた東京裁判について論ずることは控えるが、とにかく、自国民の戦没者を追悼する施設を外国の意向に副うて建設するというような卑屈かつ不名誉なことを行った国がほかにあるのか。

 しばしばこういう文脈で口にされる「どなたも、わだかまりなく…」とは聞こえはいいが、靖國神社を「戦没者追悼の中心的施設」と考え、首相の参拝を望んでいる多くの国民にとって、新しい施設は必ず新たな「わだかまり」となるに相違ない。「わだかまり」を解消すると言いながら、逆により大きな「わだかまり」を生み出すことになる。このことに全く気づいていない。

 その靖國神社には年間六百万人もの参拝者が訪れるが、千鳥ケ淵戦没者墓苑でさえ残念ながら公称でも十五万人にとどまる。まして、このような新施設にどれほどの人が訪れるであろうか。

 とりわけ問題とすべきなのは、靖國神社に代わる施設の建設は「死んだら靖國神社で会おう」と言い残して祖国のために散華した幾多の将兵たちとの約束を踏みにじる結果になることである。あの小泉元首相も、当時連立与党であった公明党向けのリップサービスとは裏腹に、親しい人には、「約束を違えて新しい施設を造るなんて考えられないね」というようなことを漏らしていたとか。

保守派にとって最大難局
 最も憤慨に堪えないのは、「靖國には天皇陛下も参拝されない。心安らかに行かれる施設が望ましい」との鳩山代表の発言である。まずもって靖國神社の春秋の例大祭には毎年欠かさず勅使を差し遣わしておられる天皇陛下のお立場からすれば、靖國神社に代替しうる施設などありえない。

 大体、陛下がこれまで靖國神社に参拝できずにおられるのは、純然たる国内問題に対して加えられた中国などの執拗な干渉に迎合する鳩山代表のような反対勢力が国内に跋扈しているからではないのか。その点を意図的に逸らすばかりか、それを逆手にとって自説の論拠にするとは、おためごかしもきわまる。

 岡田外相は「靖國とは切り離して考えるべきだ」と述べ、新施設が靖國神社の「代替施設」ではないことを強調したが、この鳩山発言はまさに「代替施設」であることをはっきりと示している。

 以上、あらためて国立戦没者追悼施設の建設に反対する理由の数々を書き連ねてきたが、この愚かしい計画がいよいよ現実味を帯びてきた今日、これまで何度かこの種の画策を阻止してきた保守派陣営にとって最大の難戦が眼前のものとなりつつある。

 これにいかに立ち向かうか、その真価が問われよう。それは民主党内の保守派にとっても、連立政権に参加した国民新党にとっても同様である。

〔産経新聞「正論」(平21・10・2)から転載〕
(『英霊にこたえる会だより』第45号掲載)

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